事業承継前に知っておきたい、自社株式をめぐる諸問題

はじめに

法人経営者にとって切っても切り離せないもの、それが自社の株式ではないでしょうか。
多くの経営者にとっては、「自社株式」は法人設立時に出資したっきりで、その後は事業経営に集中する中で、特に意識にものぼらないものだと思います。 

ただ、法人設立から数十年後、経営者の「事業承継」を考える際、「自社株式」に関して非常に悩ましい問題が生じることがあります。 

今回は、経営者にとって決して無視することのできない「自社株式」に関する問題点についてお伝えできればと思います。 

自社株式の二つの側面 「経営権」と「財産権」

「自社株式」を持つということは、「①会社の意思決定権(経営権)」と「②会社オーナーとしての権利(財産権)」を持つことを意味します。 

法人経営者にとって「自社株式」が切っても切り離すことができないのは、前者の「経営権」を握っておく必要があるからです。

株式会社であれば、会社の意思決定は株主総会により行いますが、安定的に重要な意思決定を下していくためには、総議決権の3分の2以上を経営者が持っていることが望ましいです。 

つまり株式会社(特に中小企業)において、経営者は「自社株式」の大部分を持っておく必要があるということです。

ここで問題となるのが、後者の「財産権」としての「自社株式」の側面です。

経営者は安定経営のために大部分の「自社株式」を持っておく必要がありますが、忘れてはいけないのは、これが経営者にとっての財産だということです。

現金や有価証券、不動産といった財産と同様、「自社の株式」も経営者にとっての財産です。

そのため、経営者の事業承継をする際、後継者に「自社株式」を譲ることになるのですが、財産の移転であるため、課税の問題が生じるのです。

親から子への事業承継において、「贈与」により「自社株式」の移転をするケースが多いですが、この場合、株をもらいうける子供の側に「贈与税」の負担が生じます

贈与税額は財産の評価額により異なるのですが、実は「自社株式」の評価額が思いのほかに高いのです。

意外に高い「自社株式」の評価額

事業承継の際の問題点の一つは、「自社株式」の評価額が高く、贈与により株を貰い受ける後継者の納税負担が重いという点です。

税負担の目安となる「自社株式」の評価は、以下の方法により算定します。

取引相場のない株式の評価方法(原則的評価方式)

  1. 類似業種比準価額方式
  2. 純資産価額方式

上記のいずれか、または、折衷した金額

具体的な計算法等は、別の機会にご説明させていただこうと思いますが、税のルールにより評価額を算定すると、設立時出資額の数十倍、ときには百倍以上になっているというケースも珍しくありません。 

特に創業後数十年たっており、その間多くの利益を出している会社の場合、その傾向が強いです。

創業後数十年を経ているということは、その間事業が成功している会社が多く、利益が多く出ているということは会社の純資産が積みあがっていことを意味するため、うえで示した②純資産価額方式の金額が非常に高くなります。 

このことを知らないと、「100万円を出資して設立した法人なのだから、自社株の評価額は100万円だろう」と考えてしまいがちですが、事業承継の際に「自社株式」の評価の高さに驚くことになります。

創業後安定して利益の出ている法人は、毎年決算のごとに簡易株価算定により自社の株価を把握することをお勧めします。

早めに対処したい「分散株式の集約」

業歴の長い会社は株価が高くなりがちだとお伝えしましたが、例えば50年を超えるような法人の場合、現在の代表者が3代目であるというケースも多いかと思います。

そのようなケースで問題となるのが、親族間で株式が分散している場合です。

創業者の祖父から、父を経て、孫である現経営者が3代目となるのですが、自社株式の一部を叔父や叔母が持っている場合があります。
これは祖父の相続の際、相続財産としての自社株式が、2代目である父だけでなく、その兄弟である叔父や叔母へ移っているケースです。

この状態で時間が経つと、いずれ叔父や叔母の相続があり、自社株式が従兄弟等へ移ってしまい、ますます株式の分散が進みます。

株式の分散が進むと、関係性の薄い遠縁の親戚が会社の議決権を持つことになり、円滑な会社経営を阻害される可能性があります。

このような場合には、早めに株式の買取を進めるなど対策が必要です。

早めに対処したい「名義株式の解消」

株主名簿に計上された名義上の株主と、実際に出資した人間が異なる、いわゆる「名義株式」がある場合も早めの対処が必要です。

「名義株式」の問題が生じたのは、過去に存在したルールが要因であるといわれています。

現在でこそ、株式会社を設立する際1人の株主により設立できるようになりましたが、平成2年の商法改正前までは、設立時に最低7人の株主が必要でした。

当時設立された会社の中には、株主の人数を揃えるため、親戚や友人に株主になってもらい設立した会社も多かったのですが、なかには友人等に出資してもらったことにして、実際の財産出資は創業社長自らがしているケースもあります。このような株式はいわゆる「名義株式」として、名義は友人等ですが実際の所有者は創業社長であるものとして扱われます。 

創業社長と名義株主である友人が健在なら、事情を分かっている者同士なのでお互いに「名義株式」であるという認識がありますが、どちらかが亡くなっている場合、株主としての権利がどちらにあるのか明確に定まらず宙ぶらりんな状態となります。

双方が亡くなってしまっている場合、当時の状況を知る者がおらず、名義株主である友人の親族が株主名簿に存在することになり、上で書いた分散株式の問題も同時に生じてしまうことになります。

そうならないためにも、創業社長の代で「名義株式」の問題は解消しておきたいものです。

悩ましい「相続財産としての自社株式」

上でも述べましたが、会社の安定経営のため「自社株式」の多くを経営者が所有する必要があります。「自社株式」に付随する「経営権」を手にするためです。ただ「自社株式」には「財産権」としての性格もあるため、経営者が「自社株式」の多くを取得する場合には、取得に伴う税負担の問題も生じます。

さらにややこしいのは、親子間で事業承継をする場合、特に評価額の高い「自社株式」の多くを後継者である一人の子が取得するなら、後継者以外の子との相続財産承継のバランスが悪くなってしまうという点です。

業歴の長い会社の場合、現経営者の有する「自社株式」の評価額が数億円から数十億円になっているケースも珍しくありません。

たとえば経営者である父に二人の子供がいたとして、一人が後継者、もう一人が自社とは関係のない子供だった場合を考えます。

後継者に数億円の「自社株式」を渡した場合、もう一人の子供には代わりに預金を渡したいと思っても、数億円の預金が手元にあるケースはまれです。
この場合、もう一人の子供に公平に財産を分けることができず、財産承継のバランスを欠いてしまいます。

かと言って、後継者以外の子供にも自社株式を渡してしまうと、株式が分散してしまう原因となるため、得策ではありません。

会社の健康診断「簡易株価算定」のすすめ

上記のとおり、「自社株式」をめぐっては様々な問題があります。
しかも各問題が複雑に関係しているので、どう対処すべきかは、様々な観点から検討を進める必要があります。

また、このような問題が表面化するのは事業承継等を検討するタイミングが多いのですが、その時期は一般的に法人設立から数十年後です。


それにも関わらず、上記のような問題は法人の設立時から潜在的に存在したり、毎期の決算により積みあがる純資産が原因になっているのです。

私自身、これまで様々な法人の事業承継問題に関与させていただきましたが、早い段階から問題意識をもって少しずつ対策を進めていくことが重要と感じています。

そのためにも、毎期の決算後に簡易な自社株式の評価算定をすることをお勧めしています。
毎期の株式評価を把握し、これに関わる諸問題を知ることで、今後の対策を検討することができるからです。

当事務所では、決算ごとの簡易評価もしていますので、気になられた方がおられましたら、お気軽にお問い合わせいただければと思います。